昨年の3月に予定されていて、結局コロナのために中止になってしまった「教育支援実践研究交流会」が、令和3年2月27日(土)ZOOMによるオンラインで開催され、「市川にオオムラサキを生息させる会」の代表として提案してきた。
<基調講演>
生重幸恵 氏
(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長)
演題:「地域とつながるコミュニティスクール~次代を担う子どもたちの育成を~」
<実践発表>
発表① 川間中学校区学校地域支援本部(野田市)
発表② NPO法人オオムラサキを生息させる会(市川市)
発表③ あびこレクリエーションクラブ(我孫子市)
場所 さわやかちば県民プラザ
自分自身もZOOMを使うのは初めてだったが、思っていたよりは手軽に使えることを実感した。少々長くなるが、本日の提案内容を紹介したい。
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こんにちは。「NPO法人市川にオオムラサキを生息させる会」理事長の川添と申します。
本来であれば、私と、副理事長の村井吉和さんと共同で発表させていただく予定でしたが、今回ZOOMでの提案という形になりましたので、私の方で代表して発表させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
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では、説明に入らせていただきます。
はじめに、「オオムラサキ」という蝶について、少しご説明させていただきます。 オオムラサキは、1957年日本昆虫学会で国蝶に選定され、自然環境を測定する目安になる指標昆虫の一つとなっています。
実は、この前の年、昭和31年(1956年)、オオムラサキの記念切手が発行されたこともきっかけになったと伺っておりますが、勇ましく、堂々としていて、華麗である事、また当時は日本中に生息していたこと等が理由にあげられました。
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オオムラサキは、タテハチョウ科の中では最大と言われており、オスは青むらさき色・メスはこげ茶色をしています。特に、オスの青むらさきは大変特徴的で、美しい色合いを持った蝶です。
幼虫の時には、エノキやエゾノキを食草としており、成虫になりますと、クヌギやコナラなどの樹液に集まったり、クリやクサギなどの花の蜜を吸ったりします。
寿命は1年。毎年、5月頃に冬の間過ごしていた枯葉からエノキに登りはじめ、8月頃の産卵まで約2か月から3か月を過ごします。
生息場所は、日本全域で、朝鮮半島、中国、台湾北部、ベトナム北部にも分布しています。
千葉県内にも一部地域で目撃されているようですが、都市部ではほとんど絶滅状態となっています。私たちの住んでいる市川市では、50~60年ほど前に見たことがある、という方の報告を受けております。
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次に、オオムラサキの一生を少しご紹介します。
この写真は「越冬幼虫」と言って、昨年の夏に生まれた幼虫たちの様子です。厳しい冬の間は、エノキの根元の落ち葉にはりついて過ごしています。
5月の新緑が芽吹く頃、幼虫はエノキの木を登って、脱皮を繰り返しながら、成長していきます。右側の写真は、木に登って20日位の五齢幼虫ですが、エノキの葉を食べながら、1日に1ミリメートル以上の速さで成長していきます。なぜエノキしか食べないのかについては、まだ解明されていないそうです。
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6月になると、さなぎになります。さなぎでは、頭を下にして約2週間ほどこの状態で過ごします。この時期は、アリやクモ、カメムシなどにねらわれてしまう事も多く、注意が必要です。
さなぎの、色が黒っぽく変わってくると、いよいよ羽化します。私自身は、残念ながら羽化の様子を見ていないのですが、朝一で飼育小屋を身に行くと羽化している事が多いので、夜のうちから朝方羽化することが多いと思われます。
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成虫になると、えさが変わります。本来は、クヌギやコナラなどの樹液を好むのですが、飼育小屋ではバナナやキウイなどの果物を与えたり、カブトムシ用のえさを与えたりします。
成虫になって、しばらくするとオスとメスがお見合いをして、交尾をします。うまくいくと産卵しますが、産卵しても無精卵だったりする事もあります。
実は、この産卵の部分がなかなか難しく、せまい飼育小屋の中では成功することが少ないのが現状です。そこで、現在は市川市の自然博物館のご協力を得て、人工交尾に取り組み始めたところです。
7月下旬から8月上旬にかけて産卵します。初回は80~100個位産卵しますが、メス一頭で400個位産卵するそうです。
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この新聞記事は、2年前の11月に掲載されたものです。この記事によると、数十年前には、日本のどこにでもいたはずの、オオムラサキ、2019年の環境省調査でによると、チョウやホタルなど身近な生物種の多くが減少傾向にあることが示されました。
特に、チョウ類では、評価対象種(87種)のうち約4割(34種)が、10年あたりで30%も減少していることが分かりました。
この中には、オオムラサキをはじめ、ミヤマカラスアゲハ、アカタテハ・ゴマダラチョウなどが含まれています。これらの多くは、環境省のレッドリストに掲載されていない、「普通種」であることも報告されています。
つまり、以前はどこにでも見られた普通の蝶たちが、特に都市近郊では、絶滅の危機状態にあるということです。
こういった事実の原因としては、里山の減少や管理放棄の問題が挙げられています。
都市周辺では、開発による里山自体が大きく減少おり、こういった里山の環境変化が、「普通種の減少」と関係しているのではないかと言われています。
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私ども、「オオムラサキを市川市に生息させる会」は、こういったオオムラサキの現状を憂い、平成26年(2014年)設立されました。
設立時の私たちの願いは、主に2点。
一つは「絶滅状態にあるオオムラサキを復活させたい」ということ。
そして、二つ目は「オオムラサキの飼育活動を通して、子どもたちに自然を守っていくことの大切さを伝えたい」ということでした。
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ここからは、私どもの活動の内容の一部をご紹介します。
設立から当初の2年間を第1期として、その頃の具体的な活動内容は、次の通りです。
・オオムラサキの飼育とエノキの苗木植樹
・オオムラサキ幼虫飼育教室の開設
・羽化したオオムラサキ観察かご展示
・オオムラサキ通信の発行
・ホームページの創設 等々
この頃の活動の中心は、オオムラサキの飼育活動を通じて、身近な所から少しでもオオムラサキの存在を知っていただく事にありました。
しかしながら、オオムラサキの飼育には、食草であるエノキや成虫のエサの確保の問題、卵や幼虫の天敵であるハチやアリの問題、飼育小屋の問題、そして何より繁殖の問題等が課題として多く残っておりました。
幼虫から成虫までの活動期間が2か月ほどしかない事も、その要因の一つとなっていました。
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この頃の活動の一部をご紹介いたします。
まず、オオムラサキの幼虫については、東京でオオムラサキの飼育活動を行っている方から、分けて頂いています。
エノキについては村井さんのご自宅の庭先に植樹し、暴風ネットをかけて飼育小屋としました。さらに、この他にも室内での観察ができるよう、小型のケージでの飼育も行っていました。成虫には、バナナなどの果物やカブトムシのえさなどを与えます。左側の写真が村井さんのお宅に設置された飼育舎です。
また、近くの子どもたちに声をかけて、「オオムラサキを幼虫から育てる教室」を開催し、観察会を行ったり、街歩きをしながら「エノキマップ」を作成したりしました。右側の写真が「エノキマップ」になります。
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こちらは、この頃発行した「オオムラサキ通信」の第1号です。現在は、年2回ほどのペースで発行し、該当する幼稚園、小学校の幼児・児童ならびに教職員の先生方、本会の支援者の方々、に配布していますが、昨年は周辺地域に新聞折込で3000部を配布いたしました。
また、市内の商業施設等でオオムラサキの飼育かごを展示して、多くの市民の方に見て頂くような活動も行いました。
この頃の活動については、地方のタウン誌などにも紹介されました。
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2016年(平成28年)頃からは、第2期として、少しずつ活動の範囲広がりを見せるようになってきました。
まず、近隣幼稚園(2園)と小学校(中山小学校・若宮小学校)、そして市川市自然博物館への幼虫の配布やエノキなどの提供が始まりました。
オオムラサキは、子どもたちの目に触れやすい所に設置してもらい、多くの子どもたちが自由に観察できる場を作っていただきました。
その後、園庭や校庭の片隅に、飼育小屋を設置していただきました。このことにより、各園と学校では、継続的な飼育と観察がさらに可能になっていくと思われます。また、市川市の自然博物館に、オオムラサキの人工交尾(ハンドペアリング)にも挑戦していただきました。残念ながら、十分な結果は出ていませんが、今後この技術が確立すれば、市内での産卵-成長―羽化のサイクルが確立することになり、大いに期待している所です。
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こちらの小学校では、玄関入口にオオムラサキとエノキを設置していただき、子どもたちはもちろん、多くの保護者の方々にも観察して頂けるようになりました。真ん中の写真はは、子どもたちのかいた観察カードの一例です。
また、右側の標本は当時4年生の児童が、成虫になって死んでしまったオオムラサキを集め、自分で標本にしたものです。一度死んでしまうと標本作りは難しいのだそうですが、この児童は自分でその方法を調べて、標本にしたそうです。
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これは、学校に設置していただいた飼育小屋の一例です。学校によって状況が異なるため、多少形態はちがいますが、どちらもオオムラサキが飛び交うために最低限必要な広さを確保することができそうです。残念ながら、一昨年の台風により壊れしまった所もありますが、現在はそれぞれの幼稚園や学校の事情に合わせて設置して頂いています。
真ん中と右側の写真は、人工交尾(ハンドペアリング)の時の様子です。成虫の期間は2週間程度しかありませんので、このわずかな時間の中で成功させる必要があります。今はまだ、手探りの状態ですが、来年は私たち自身でも挑戦してみようかと考えています。
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ここで、これまでの活動の成果と課題についてご説明します
まず、成果についてですが
1つ目はオオムラサキの卵や幼虫の入手経路が確定し、毎年飼育活動に提供していくことが可能になったという事があげられます。今では、毎年安定した数の卵や幼虫を手に入れることが可能になりました。
2つ目は、オオムラサキの飼育活動が、周辺地域から周辺の幼稚園や小学校へ広がってきており、小学校における学習の場を提供する道すじが見えてきたことです。
実は、これは課題でもあるのですが、令和2年度は、各小学校において、オオムラサキをじかに観察してもらいながら学習する場を提供する予定でおりました。
残念ながら、コロナ禍のために中止にせざるを得なかったのですが、来年度は学校とも相談しながら、どのような学習の場が提供できるか考えていきたいと思っています。
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課題の一つ目は、既に絶滅状態にある、オオムラサキを市川市内に放蝶することは難しいということです。設立当初は、単に市川市にオオムラサキを繁殖させ、増やしていけば良いという考えでした。ところが、蝶の専門家の方々にお伺いすると、一度絶滅状態になった環境の中に、新たにオオムラサキを復活させる事は、今ある環境のバランスを壊すことにつながりかねないという事が分かってきた。今後は、例えば飼育小屋のような限られた空間の中での飼育活動を模索していく必要があります。
課題の2つ目は、小学校との連携をさらに進めていく必要があるという事です。そのため、オオムラサキの飼育活動を学校教育活動の一環として取り組んでいただけるよう支援していく必要があると考えています。
現在、小学校の3年生でモンシロチョウの体の作りを学習する場がありますので、その場面で比較しながらオオムラサキをとらえていただけるよう考えています。また、高学年であれば、環境学習の一環としてとらえていく事も可能だと思います。学校のニーズに応じたプログラムを開発していく必要があります。
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平成26年から始まった、本会の活動は、少しずつ連携の輪を広げて参りましたが、ここでは今後の連携の方向性について触れたいと思います。
周辺地域の幼稚園や小学校との連携についてですが、来年度は小学校が1校増えまして、3校がオオムラサキの飼育活動に取り組んでいただく事になっております。これは、ひとえに市川市教育委員会のご支援があっての事ですが、今後市内の各小学校で、オオムラサキの飼育が広まっていく事も期待しております。
また、市川市自然博物館のご協力をいただきながら、エノキの提供や人工交尾には、今後も取り組んでいただく予定であります。
今後は、幼稚園と小学校、市川市自然博物館と私ども「市川にオオムラサキを生息させる会」の連携を強化しながら、地域社会への広がりを期待したいと考えているところです。
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現在、私自身も小さなベランダに飼育舎を設置して、オオムラサキの飼育に取り組んでいます。1年を通して飼育していますと、様々な問題がおこります。
例えば大きな台風によって飼育の一部が壊れてしまうという事がありました。
また、自宅前の梨園の消毒により、せっかく羽化した成虫が死んでしまったこともありました。冬は、厳しい寒さのため、越冬幼虫のまましんでしまうものも多いようです。自然界にすむ生物たちを取り巻く環境は、決して楽なものではありませんが、たくましく生きようとする強い生命力というものにも感嘆しているところであります。
これほどの強い生命力を持ったオオムラサキたちですが、先ほどお伝えしました通り、環境省の調査では、「絶滅危惧種」に相当するレベルまで激減しているという発表がありました。
一度失ってしまった自然を取り戻すことは、非常に難しいことであります。
しかしながら、私たちの活動が、少しでもオオムラサキの生息環境を取り戻すきっかけになること、そして未来を担う子どもたちには、自然を守り維持していこうとする気持ちを育て、具体的な行動の起こせるようになってほしいと願うところでもあります。
私たちは、物言わぬオオムラサキたちから、たくさんのことを学ばなければならないと考えております。
以上で、「市川にオオムラサキを生息させる会」の発表を終わります。